Act.01 |
「え・・・えっと・・・ええ?」 じっとゆうきが見つめる先にいる華は、とても戸惑ってるようだった。 先程の涙がそもそもの原因だろうことは容易に想像がつく。 ゆうきが覚えている限り華の前で涙を流したことはまったくない。 それにこんな風に抱きたいと確認すること自体、とても珍しい。 華が戸惑うことはわかっている。 でも今日だけは、華が拒絶しないことを確認したかった。 夢の中とはいえ、はっきりと華に拒否されたことが引っかかっていたのかもしれない。 「華?」 ゆうきが返答を促す。 華は意を決したように僅かに身を傾けると、ゆうきの顔に両手をかけた。 そのままそっとゆうきの唇に軽く触れるようなキスを落としてくる。 「・・・うん。」 唇を離して、華がこくりと頷くと。 ゆうきは華の頭に手を掛け、引き寄せた。 華が薄く唇を開く。その上に、ゆうきが口付ける。 口付けは深く。ゆうきが華の中に舌を滑り込ませた。 華の舌を絡めとる。 ゆうきの腕の中で甘く喉を鳴らすのは、何よりも大切な人。 充分に華の唇を味わった後、軽く唇を離しながらやわらかな華のそれを食む。 華の甘い吐息。 それを聞きながら、ゆうきは今度こそ本当に唇を離した。 「ゆうきちゃん、大好き。」 息がかかる程近くで華がそっとゆうきに呟く。 頬を上気させ腕の中に納まっている華が愛しくて堪らない。 ゆうきは乱暴にならないように華の腕を引くと、ソファに押し倒していた。 華が小さく驚きの声を上げる。 ゆうきがそれを封じるように華の唇を奪う。 早急さに、華が一度驚いたように目を見開いた。 「ん・・・っ、ま・・・って。ゆうきちゃん。・・・あの、ここ・・・で?」 唇の離れたタイミングで華が困惑したようにゆうきへ向けて訴えてきたが、ゆうきは苦笑を浮かべ、華の上で上体を起こしただけだった。 「ここで。ベットまで待てない。」 ベットまで行く時間すら今はもどかしい。 ゆうきは着ていたスーツの上着を脱ぎ捨て、無造作に床へと投げ捨てる。 軽くネクタイを緩めると、しゅっと音をさせ一気にそれを襟から抜き去った。 「・・・せっかち。」 どうやらゆうきのその様子に観念したらしい華が、小さく微笑んだ後腕を伸ばしてゆうきの頬に触れてきた。 少し冷やりとした指の感触を頬に感じ、ゆうきの苦笑が深まる。 性急に求めすぎていることは自身が一番よくわかっているだけに、まったくもって返す言葉がないと、ゆうきが思う。 もちろん体の繋がりだけが重要だというわけではない。 傍に居るだけで満たされる時もある。 それでも今は抱いた感触や愛撫に反応すると甘い声、それにすがりつくように伸ばされる細い腕が恋しかった。 その心を自分が捉えていることを無性に確認したくて堪らない。 「今回は俺の我儘に付き合ってくれ。触れたくて・・・おかしくなりそうだった。」 組み敷いている華の纏っているシャツについた小さな釦に手を掛けながら、ゆうきが囁く。 「・・・私も・・・ゆうきちゃんに会いたかった。」 釦を外し終わった華のシャツを開き、胸元に口付けていたゆうきが顔を上げれば、真っ直ぐにゆうきに向けられた華の目はとても切なげだった。 少し状態を起こし、華の頬に触れる。 「すごく、気持いい。ゆうきちゃんに触ってもらうの・・・大好き。」 華の小さく照れたような笑み。 ゆうきは輪郭を辿る様に指を這わせ、その動きに華の目は次第に閉じられていき―――・・・後には甘さを含んだ吐息だけがゆうきの耳に届いていた。 *** 「っ・・・ん・・・くっ、あ、ん・・・」 床に膝をついたゆうきはソファに座らせた華の足の間で、焦らすように舌を動かしていた。 既に充分潤った華の秘所からは、ゆうきが舐めとった後も直ぐにとろとろと蜜が溢れてくる。 指で花芯に刺激を与えながら中に指を入れると久しぶりな為か、きつく締め付けられた。 「んんっ」 ゆうきが中で指を動かせば、華が切ない声をあげる。 びくびくと震える足に宥めるように触れた後、ゆうきは指を引き抜いた。 目を閉じて、くたりとしている華の足をゆうきが抱え上げる。 濡れたそこにゆうきが自身を押し当てると、華が薄っすらと目を開いた。 「もう、いい?」 甘く笑みながらゆうきが聞けば。 「ん。・・・きて。」 潤んだ瞳で華が頷く。ゆうきは華の足を持ちながら慎重に狭い華の中に入り込んだ。 上気する肌に愛撫を施しながら腰を進める。 久しぶりな為か、華の中は普段よりもきつかった。 熱いそれがゆうきを締め付ける。 華の蜜とゆうきの熱が交じり合い、濡れた音を立てていた。 充分な広さがあるとはいえないソファの上で、ゆうきが華の中への抽挿を繰り返す。 「ゆ・・・きちゃ・・・っ、も・・・だ、め・・・んっ」 華が蕩けるような甘い声で限界を訴えてきていた。 ゆうきの背中に回されていた華の手に、力が籠もる。 ゆうきが華の奥を突いたとき、一層華の中がきつくなった。 「はなっ・・・」 ゆうき自身も自分の限界を感じて華を両手で抱きしめる。 「や・・・いっ・・・あぁ・・・っ」 二人一緒に迎えた絶頂はゆうきにとても満足感を齎すものだった。 *** 「・・・華、聞いてもいいかな?」 これは、ソファから寝室のベットへと移動した後、もう一度華を求め、その甘い余韻に浸りながら華を抱きしめていたときに、ゆうきが不意に発した一言だった。 「なぁに?」 うとうとと瞳を閉じかけていた華がにこりと笑って答える。 ゆうきはどういうべきか迷っていた。 「昔、俺を起こしに来た時に・・・」 「うん?」 華が幸せそうな笑みを浮かべている。 それをみて、ゆうきは考えあぐねて口にした言葉をやや後悔していた。 ゆうきが尋ねたかったのは、華がゆうきを拒絶した空白の一ヶ月のこと。 華が何を感じて、何を思っていたのか。 だが、華の中であの出来事がどういう感情を齎していたかわからない以上、迂闊に聞くのは憚られた。 「いや―――・・・やっぱりいい。」 溜息を落としてゆうきが華から視線を逸らす。 今、華は自分の傍にいる。 それだけで満足すべきなのだろうと、ゆうきは華を抱きしめなおした。 だが、僅かの間の後、敢えてその話題を口にしたのは華のほうだった。 ゆうきの胸に手をついて、華がゆうきから身を離す。 どうしたのかと不思議に思いながらも、ゆうきは華のしたいようにさせていた。 華が眼を細め、じっとゆうきを見据えてくる。 「・・・もしかして、ゆうきちゃんと初めて女の人がいた時のこと、とか?」 図星をつかれて驚きながらゆうきは押し黙るしかなかった。 黙り込んだゆうきに向けて華がすっと人差し指を突きつけてくる。 「すっごくショックだった。」 「・・・華・・・ごめん。悪かったと思ってる。」 まっすぐに見つめてくる華に、ゆうきは降参の意を示して手を上げた。 傷つけたのだろう事はわかっていた。何より中学生の華に見せるような場面ではなかった。あの時は確かにこれ以外に自分を抑える方法が無かったとはいえ、正当化できる行為ではない。 全面的に自分の非を肯定したゆうきに対して、華が苦笑を浮かべながら指を下ろした。 「うん。あのね、本当は、ね。あの時、もうゆうきちゃんのところに来るのは止めようって思ってたの。」 ゆっくりと、ぽつりぽつりと話し出した華の言葉にゆうきが聞き入る。 あれは確かに見限られても仕方の無い状況であっただけに反論の余地がない。 華がゆうきに向けて寂しそうな、それでいて切なそうな笑顔を見せた。 「でもね、駄目だった。会いたくて、ゆうきちゃんの姿が見たくて。・・・だからもう一生妹でもいいやって思ったんだ。ゆうきちゃんが結婚して幸せになってくれる姿を見るまでは傍にいたいなって。・・・あ、でも。ゆうきちゃんの幸せそうな姿を見たら・・・ちゃんと諦めるつもりだったんだよ。」 最後の方で笑みを消しながら呟いた華を、抱きしめたくて仕方なかった。 ゆうきがじっと見つめる中、華が視線を彷徨わせ目を伏せる。 「実はね。このところゆうきちゃんに会えなくて、なんだか思い出しちゃってたの。あの時のこと。あの時の気持。・・・それで今日、帰りが遅くなっちゃったんだけど、どうしても会いたくなって・・・。」 だんだんと声のボリュームを落とす華にゆうきが腕を伸ばした。細い体を抱きしめる。 華が少し躊躇って、それでもゆうきにきつく抱きついてきた。 結局二人ともが同じように感じていたらしい。 その事実にゆうきは何故だかほっと安堵している自分がいることに気づいていた。 ―――お互いがお互いを思うよりずっと、か。 華の背中にまわした腕で華の体を愛撫しながら、ゆうきが心の中で囁く。 ゆうきの中にあった、会えない間に積もり積もった不安。 それらはきれいに解け、今は跡形もなく無く消え去っていた。 *** すうすうと、華の規則正しい寝息が聞こえる。 ゆうきの横で、華は猫のようにまるまって眠り込んでいた。 ゆうきが華の頭に手を伸ばす。 久しぶりの酷く安定した気分に、自然と顔が綻んでいく。 ―――誰かと寝てこんな気持になるなんてこと、華とする前にはなかったな。 付き合い始めた頃より大分伸びた華の髪にゆうきが指を絡める。 さらさらと音を立て滑り落ちていくそれに目を遣りながら微かに苦い笑みを浮かべた。 「―――まいったな。」 ふと、呟き。 ―――のめり込み過ぎてる。 そんな、既にわかりきっていたことを再確認する。 華が傍に居ないだけで、こんなにも不安定になる自分が信じられなかった。 もう、失うことなど考えられない。手放すこともできない。 指に絡めたしなやかな髪に口づける。 寝顔をじっと見つめながら、ゆうきは華が近頃頓に大人びた仕草や表情をするようになったなと、思案に耽っていた。 二人で街中を歩いていても、華に向けられる視線を感じることが度々ある。 そのたびにゆうきは、真っ直ぐに伸びた黒髪も白い肌も真っ黒な瞳も。全て自分のものだと主張してしまいたくなる衝動にかられている。 まだまだこれから先、女になっていくのであろう華を見られることが嬉しい気持はもちろんあるが、その度に華へ向けられる視線も増えていくのだろうと思うと、ゆうきはかなり複雑な気分だった。 ―――誰かに渡すつもりも、とられるつもりもないけどな。 華の少し上気した頬に口付けながら、ゆうきはこれからも手放さないようにしっかり繋ぎとめておこうと新たな決意を固めていた。 「・・・ん・・・。」 小さく寝返りを打った華が声を漏らす。 ゆうきその様子に笑みを零すと、華を起こさないようにその腕に抱きこみ、幸せで温かな深い眠りへとゆっくり落ちていった。 〜Fin〜 |
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