Act.02


華の素足が、石畳に触れる。ひやりとした感触。

薄暗い中、湯気の向こうに見えるのは華のとても大切な恋人の姿。
既に湯船に浸かっているゆうきの背中に、華が小さく息を呑む。

華はとくとくと鳴る胸に一度きつくタオルを押し当ると、手近にあった桶を持った。
少し迷ってから、体を覆っていたタオルをはらりと解く。

さっと掛け湯をし、ややゆうきより離れた場所からそっと湯船に足をつけた。

お湯の温度は、丁度良かった。熱くも無く温くも無く。

−−−でも、すぐのぼせそう・・・。

肩まで浸かり、華がゆうきに視線を向ける。

すると、どうやらこちらを見ていたらしいゆうきとしっかり目が合った。

「華、こっちにおいで?」

甘く、誘われる。華は言われるままにぱちゃりと水音をさせながら、ゆうきの傍へと向っていた。



「あの・・・ゆうきちゃん?」

「ん?」

背後からゆうきに抱きしめられながら、華は困惑しつつ俯いていた。
ゆうきの手が、華の体をするすると撫でている。

「・・・のぼせそう。」

小さく華が言うと、ゆうきが低く笑った。

「一般的に、温泉成分のある湯の中でマッサージするのはいいらしいぞ?」

「本当?」

「本当。」

そう言い切って、まったく現在の行為を止めるつもりはないらしいゆうきに、華は少し疑惑を含んだ目を向ける。
するとゆうきが声を立てて笑いながら、華を再び背後からやんわりと抱きしめた。

そのまま、するすると華の肩から腕、背中を掌で撫でていく。

「・・・っ」

ゆうきの手が膝にかかった時点で、華がこくりと喉を鳴らした。

「ほら、もっと開いて?」

首筋に、熱い感触。ゆうきの唇が押し付けられている。強く、吸われる。

「・・・どうして?」

「どうしてだと思う?」

唇を離したゆうきが、からかうように華に問いかけた。

「わかんない・・・。」

「そりゃあもちろん、下心ありだからだな。」

言うなり、ゆうきの手が華の内腿の間に忍び込んでくる。

「あっ!」

ぱちゃりとお湯を揺らし、華は身じろぎした。



***




「だ、め・・・ゆ・き・・ちゃ・・・」

ゆうきの腕の中で、華が甘く切ない声を上げている。
僅かに震える手が、秘所に触れているゆうきを止めようとしていた。

「ん?何が?」

背後から華の耳朶を軽く舐めながら、甘い笑みを浮かべたゆうきが尋ねる。

「お湯、汚しちゃう、から。」

「上がる?」

ゆうきの言葉に、華がこくこくと頷く。
そっと廻していた腕を解くと、華がくたりと風呂の縁に寄りかかった。



「ん・・・はぁ・・・」

脱衣所の中に、濃密な口付けの音が響く。
木製の壁を背に、バスタオルに包まった華をゆうきの両腕が支えていた。

上気した華のうるんだ瞳がゆうきを誘う。

バスタオルの中に手を滑り込ませ、ゆうきが直に華の肌に触れるとびくりと華が震えた。
吸い付くような肌の感触を楽しみながら、ゆうきは手を下へと滑らせていく。

薄い茂みを掻き分け、華の中心に触れた。

「・・・んんっ」

くちゅっと音をさせ、ゆうきの指を迎え入れた華のそこは、既に充分潤っている。
だが、ゆうきは華の花芯に指を滑らせ、更に快感を追い上げた。

「あ、やぁ・・・ゆうき、ちゃっ」


りりりりん。りりりりん。


「・・・え?・・・な、に?」

華が瞬きし、ゆうきの動きが止まる。

「・・・呼び鈴、だな。」

ゆうきは、舌打ちしたい心境を堪えて溜息を落とす。

独立している離れだけあって、ここには入口には呼び鈴がついていた。
それが鳴ったということはつまり誰か来たということだろう。

おそらく時刻を考えると、夕飯の支度をしにきた仲居というのが妥当な線だった。

「誰か、来たんだよね?・・・どうしよう?」

華が困り果てたようにゆうきを見ている。
確かに今の華の状態で人前に出るのは酷だなと、ゆうきが苦笑した。

散々自分で煽っておいてなんだが、ほぼ落ちかけているバスタオルから覗く肌は上気していて、その瞳は酷く潤んでいる。
おそらく恋人同士で泊まりに来ているということもあわせて考えれば、何をしていたかなど容易に想像できるだろう。

ゆうきがくしゃりと華の頭を撫でた。

「華、とりあえず浴衣だけ着とけ。オレだけでるから。」

「・・・うん。」

恥ずかしそうに頷く華を腕の中から離して、ゆうきは脱衣籠から華と自分の浴衣を取り上げる。
華に片方を渡しもう片方を素早く見につけると、ゆうきは脱衣所を後にした。



***




扉越しに聞こえてくるゆうきと仲居の話し声。
華は浴衣に袖を通しながら、どうにもおさまることの無い体の熱さを持て余していた。

半端に煽られた秘所には、蜜の感触。
ゆうきに触れられて硬くなった胸の頂は、浴衣に擦れて痛いぐらいだった。

淫らな自分の姿。それはとても恥ずかしい。
でも、早くゆうきに戻ってきてもらいたい。そう思う気持ちはとても強くて−−−・・・。

つきんと、体の中心に甘い疼き。

「ゆうき・・・ちゃん。」

華はそっと呟くと、きゅっと自分自身を両手で抱き締めながら壁に凭れかかっていた。



***




「華?」

夕飯の準備を終えた仲居が漸く出て行き、脱衣所の戸を開けたゆうきを出迎えたのは。
壁に凭れながら切なげにゆうきを見つめてくる華だった。

過ぎた快感のためか、華の体が小刻みに震えている。
自分自身を細い腕で抱きしめながら、華は潤んだ目をゆうきに向けていた。

僅かにはだけている襟元。乱れた浴衣の裾から覗く白い足。

「ゆ、うきちゃん・・・。」

耐えかねたように華が小さく頷く。

「どうした?」

甘い笑みを浮かべ、ゆうきが華に近寄る。そして、壊れ物を扱うように首筋に手を這わせた。
ぴくりと華が反応する。

このまま強引に体を開かせてしまいたい衝動。
だがそれを抑え、ゆうきは華に軽く触れるだけの愛撫を施していく。

できることなら、華から求めて欲しい、そうゆうきは思っていた。

切なそうに瞳を伏せ。ゆうきの動きに華が甘い声を漏らす。
浴衣の裾から差し入れたゆうきの手は、華の内腿を撫で上げている。
でも、決して秘所には触れない。

もどかしそうに華がゆうきの名を呼んだ。
ゆうきの愛撫の手が止まる。

「あの、ね・・・ちゃん、と・・・触って?」

華がゆうきの浴衣の袖を掴んで小さく消え入りそうな声で囁いた。
すっとゆうきが華から身を離す。不思議そうに見つめてくる華。

「じゃ、自分で浴衣、脱いで?」

ゆうきは最上級の甘い笑顔を浮かべ、華に告げた。

「え!?」

「ん?」

にこりと笑顔で切り返えすと、華が俯く。

「・・・ゆうきちゃんの・・・いじわる・・・。」

恥ずかしそうに華はそっと浴衣に手を掛けると、躊躇いつつも自らそれを足元に滑り落とした。
脱衣所のあまり明るくは無い灯りの元。一糸纏わぬ華の裸身。

ゆうきは自分で言った事ながら、その姿に制御が効かなくなったのを感じた。

華を引き寄せ、抱きしめる。深く唇を重ねる。

唇を重ねたままのゆうきの指が、華の秘所に忍び込む。
くちゅりと音をさせ、ゆうきは華の中を掻き乱した。

「ん・・・あぁ・・・」

華の白い内腿をとろりと蜜が伝った。



***




「いいよ、一回イッて。」

ゆうきの指が華の中を擦る。
湿った音が響き。耳元で低く囁かれ。華は体を震わせながらゆうきの浴衣の袖に必死にしがみついた。

「あ・・・あああっ・・・や、ゆぅき・・・ちゃ・・・んんっ」

華の中がきつくゆうきの指を締め付ける。頭が真っ白になる。
何も考えられなくなった華の体が張り詰めた。

何度か痙攣を繰り返し、くたりと華の身体から力が抜ける。
華は荒い息を付きながら、ゆうきにしっかりと支えられていた。

脱力感と、僅かな物足りなさ。それは多分身の内にゆうきを感じていないから。
華は、ゆうきの次の行動を待っている自分に気がついていた。

でも、いつまでたっても、ゆうきは華を支えているだけで。
不審に思いながら大分落ち着いてきた華が顔を上げたその時、そっとゆうきに耳元で囁かれた。

「じゃあ、夕飯にしようか?」

「え・・・え?・・・・や、・・・だめ・・・」

今にも離れていきそうなゆうきの袖を華が掴む。
吃驚して後先考えずにした行動だったのだが、僅かに首をかしげて華を見つめるゆうきを目にした途端、後悔した。

−−−私・・・何してるの・・・。

すっと華の手がゆうきの袖から離れる。

「・・・うん。ご飯、冷めちゃうよ、ね。」

小さく笑って、足元に落ちた浴衣を拾おうと身を屈めようとし、だがその途端ゆうきに二の腕をつかまれた。

「華?・・・本当は、どうして欲しい?」

酷く真剣な顔で、ゆうきにやさしく詰問される。
華は戸惑って−−−−・・・それでも言葉を紡いだ。

「・・・・・・・・・ゆうきちゃんが、欲しい。」

「幾らでも。」

ゆうきが甘く微笑んだ。



***




ゆうきが、華の片足を腕にかける。
背後にある壁に背中を凭せ掛けた華がゆうきの首に両腕を廻していた。

「・・あっ・・・」

「・・・きつくない、か?」

「うん、平、気・・・。・・・・・・んっ」

熱い華の中にゆうきが入り込む。
華の甘い吐息。

自制の効かなくなったゆうきは、そのまま細い腰を抱えて激しく抽挿を開始する。

「蕩けそう・・・。」

ゆうきが呟き、華の唇を奪ってその感触を堪能する。

「ん、はぁ・・・。」

唇を離すと、つと銀の糸が引き、それを見て華が真っ赤になる。
その様子が愛らしくて。ゆうきはもう一度その唇にキスを落とした。

「ん・・・ふぁ・・・あっ」

「華・・・、可愛い。もっと声、聞かせて?」

「や・・・恥ずかし・・・もん・・・」

ゆうきの熱が華の中を出入りするたびに、華の口から甘い声が漏れた。
もう何度目の行為かわからない程、こうして華を抱いている。

その度に、感じる蕩けるような甘さ。
でもだからこそ、偶に求められていることを感じたくなる。
だから、ほんの少しの意地悪も、した。だが、それに答えてくれる華が愛しくて、ゆうきは華の顔を見つめながら小さく囁く。

「―――華、愛している。」

華が酷く幸せそうに−−−笑んだ。



***




そして、二人が脱衣所から出た後に、座卓の上にあったのはすっかり冷めた夕飯。
華とゆうきが顔を見合わせて笑いあう。

そして、冷めても美味な料理を堪能し、他愛の無い日常を話し、すっかり食べ終わった後、再び呼び鈴が鳴った。



***




食べ終えた食器がやってきた仲居の手によりすべて片付けられ、その後に敷かれた布団が二組。

ゆうきが洗面所から戻ってくると、華が窓側に敷かれた布団の上に座り込んでいた。
窓の外を見ている華にゆうきが近づく。

「ゆうきちゃん。」

すると、いきなり振り向いた華から、ぽんと放りなげられた白い物体。
ゆうきの手が、それを素早く捕まえる。

手にしたのは、枕。

「何、枕投げ?」

ゆうきが低く笑いながら華に向けてやんわりとそれを投げ返した。

「そう。ほら、旅館て行ったらやっぱり、枕投げだよね。」

どことなく視線を彷徨わせながら、華が返された枕を胸元に抱きしめた。
落ち着かない様子の華。ゆうきが華の傍に歩み寄る。

相変わらず枕を抱きしめたままの華に、ゆうきはそっと手を伸ばした。
さらりと華の髪を手に取る。

彷徨わせた視線。
それにこの離れに来た後、窓の外眺めていた時にゆうきの腕から華が逃れようとしていたことを思い出していた。

「−−−ひょっとして、緊張してた?」

顔を近づけて囁くと、ぱっと華の頬が赤くなった。
どうやら図星のようだ。

なるほど。それで旅館に入った後様子がおかしかったのかと、ゆうきは笑みを零した。

思えば、ホテルには何度か行ったが、こうして旅行として泊まるのは初めてだ。
風呂に入った後は、大分緊張もほぐれたのかも知れないが、座敷に敷かれた布団というが、再び華の緊張を高める要素になっているのかもしれない。


くすくすと笑いながら、ゆうきが華を上向かせる。
華の膝の上に、抱きしめていた枕が滑り落ちた。

キスを終え、ゆうきが唇を離す。
と、華が僅かな上目遣いでじっとゆうきを見つめていた。

「・・・あの、ゆうきちゃん?・・・ええっと・・・さっきので・・・ちょっとおなか一杯かな・・・なんて。」

言いよどみながら、華が再び膝の上に落ちた枕を抱えなおす。
”おなか一杯”とは、どうやら脱衣所でのことを言われているらしい。

でも、生憎とゆうきはこの状況で華に手を出さないでいられるほど枯れてはいなかった。

「ダメ。夜は別だから。」

笑顔ではっきりと告げるゆうきに、華が再びぱふんと枕を投げつける。
それを受け止めた後、ゆうきは華を布団の上に沈み込ませていた。



そして翌日。帰路の途中、どこかに寄っていこうと話していたのだが。
ゆうきのキスにより華が目覚めたのは・・・自宅前に車が到着してからのことだった――。



〜Fin〜



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