Act.02


力の抜けたビズの足を、クラが抱えあげている。

「や、だめ・・・。」

反射的に制止の声を上げたビズに、クラが苦笑した。

「無茶なことを言わないでください。」

力の抜けた足をクラにいっぱいに開かされ、あっと思う間もなくクラの熱い高ぶりを押し当てられる。ビズの体が強張る前に、クラの先端が入り込んできていた。

「ふ・・・・・・っあ・・・・」

中を一杯に広げてクラが浸入してくる。
必死に声をかみ殺して耐えるが、裂かれるような痛みが軽減するわけではない。
それでも何とかクラを受け入れたくて、ビズは出来るだけ力を抜くように何度も深呼吸する。

だが、クラがさらに奥に入ろうとしてきた時。
身を裂かれるような痛みに耐え切れなくなったビズは、小さく声を上げて体を逃そうとした。

クラの手が、ビズの細い腰を捉える。
ビズは、そのまま一気にクラの全てが中に入り込んできたのを感じた。

息がつまり、痛みで気が遠くなりそうだった。

「ビズ・・・大丈夫。・・・もう全部入りましたから。」

熱を含んだ声。クラが動きを止めてビズの髪をやさしく梳いている。

はらはらと涙を零しながら、ビズはクラの背に腕を回していた。
最奥まで受け入れたクラが熱い。圧迫感と鈍い痛みに眩暈がする。

「・・・愛してますよ・・・貴方の全ては私のものです。」

繋がったまま、クラが甘く囁く。そして、宥める様に穏やかなキス。

「・・・私も、です。・・・クラ、様・・・。」

乱れた息を何とか整えビズがクラの囁きに答える。
クラが、眼を細め、愛しむような笑顔を浮かべた。

驚いたビズに、クラが深く口付けてくる。

キスの合間に、クラの指がビズの花芯に触れていた。固くなったそこを長い指が弄ぶ。
僅かに押され、親指の腹で擦りあげられた。

ビズが甘い声を漏らすと、ゆるゆるとクラの腰が引かれる。
内壁を擦られる鈍い痛み。

「んッ・・・あっ、・・・クラ、様ッ。」

抱きついたビズの爪が、クラの背に傷をつけていく。
しかしクラは気にする様子もなく、ビズの花芯に刺激を与えながらゆっくりと腰を滑らせる。

「ビズ・・・もう少し力を抜いて・・・そう、いい子だから。少しだけ・・・我慢を。」

ビズの零れ落ちる涙が、クラの指で拭われた。
ついで頭を撫でられ、頬を撫でらる。

ビズはその仕草を受けながら、そっとクラの頬に手を伸ばした。

「・・・クラ様の・・・全ても・・・私のもの、です・・・か・・・?」

クラの動きが止まる。驚いたようにビズを見つめてくる。

「クラ様・・・?」

おかしなことを訊いてしまっただろうかと、ビズが不安になった頃。

「もちろんです。」

はっきりと答えてくれたクラの背中に、ビズはきつく抱きついていた。




軋むベットの音が激しく響く。ビズの甘い声と吐息。

「・・・・・・くっ」

クラの眉根が寄せられる。
ビズは、霞む思考の中。それでもクラの熱い昂ぶりが自分の中に注がれたのを感じた。



***




セツは、爽やかな早朝の回廊を重い足取りで歩いていた。

―――今日も、クラ様からの薔薇が無かった・・・。

その事実をビズに告げる、それが何よりもセツにとっては気が重い。
ふうと溜息をつく。

もうかなりの日数、クラからの便りは一切絶えている。もちろん訪問してくることもない。

日に日にビズの表情が暗くなっていくのをセツは辛い想いでただ見守っていることしかできなかった。

ビズは、クラに惹かれている。それはわかっていた。
そして、ビズにとってはそれは戸惑いを産む想いであることも。

シスに惹かれているとビズ自身は思っていたようだが、おそらくそれは憧れ。
自分とは違う世界の人物に憧憬を抱いているだけだと、セツは感じていた。

本当にビズが恋しているのは、クラ。

だというのに―――・・・。

「はぁ。どうしてこう上手くいかないのかしら。」

ぽつりと、セツが呟く。
目の前には、もうビズの部屋があった。自ら申し出たこととはいえ、やはり気の進まない役目をこれからまた担わなければならない。

セツが軽く二度、扉をたたく。
返事が無かった。僅かに首を傾げる。

ビズにしては珍しいことだった。セツが扉をたたくと同時に返事をしてくれるのが常なのである。

セツが再び二度、扉をたたく。だが、矢張りビズの声は返ってこなかった。

「・・・お嬢様?」

扉の外からそっと声をかけ、これはどうもおかしいとセツが眉根を寄せる。

−−−まさか、具合がお良ろしくない?

そうとなれば、もうこんなところで声を掛けている場合ではない。

「お嬢様、失礼します。」

セツは、力を込めて扉の取っ手を掴み、がちゃんと重い音を立て扉をあけた。

部屋の中へ一歩踏み込む。そして―――・・・



「―――――――なーーーーーーっ!!!!????」



危うくあげそうになった悲鳴。

それをなんとか飲み、セツが呆然と立ち尽くす。


セツの目に映っているのは、いつもと同じ朝日の差し込むビズの部屋である。
それは間違いない。しかしその部屋のベットの上には、ありえるはずのない光景が広がっていた。

そう、そこにセツが見たものは、おそらくいままでのセツの人生で、もっとも衝撃的といえるものであった。

開いた天蓋の中に覗いているのは、長年セツが大切に見守っり育ててきた少女。
ほんのりとばら色に染まった頬。おだやかな笑みを覗かせる口元。

しかし薄がけから覗くその華奢な肩は、いつものように夜着には包まれておらず白い肌をさらけ出してる。

だが、セツに最大の衝撃を与えたのは、そのビズを背後から片手で抱きしめるようにして、もう片方の腕で枕に頬杖をついている、半裸の男だった。


「・・・く、クラ・・・様?」


呆然と、セツがその男の名を呼んだ。

どこかおもしろそうにセツの様子を見ていたクラが、ビズを抱きしめていた腕を静かに持ち上げ、人差し指を自分の口元に当てる。

どうやら静かにしろということらしい。おそらくビズを起こさないためだろう。

セツが、絶句した。

何がどうなってこういう事態になっているのか、さっぱり理解できなかった。

真っ白になりかける頭。くらりと眩暈すら覚える。
しかし、そんな中。

「・・・ん。」

ビズが小さく寝返りをうった。セツの彷徨っていた目がビズへと向く。

そこには穏やかな寝顔。

―――幸せそう、だわ。

セツからみても、ビズはとても幸せそうだった。

安心しきってクラに身を預けている姿を見る限り、どうやらクラが無理やり手篭めにしたということもなさそうだと、セツは僅かに安堵する。

一気に全身の緊張が解け、気の抜ける思いだった。

クラに視線を移すと、セツの存在などまるで忘れてしまったかの様にビズの寝顔に見入っている。

どういうことかはまるでわからなかったが、ひとまずセツはこの場を辞すことにした。
軽く頭を下げ、そっと部屋から抜け出ると、静かに扉を閉める。


「・・・な、なにが・・・どうなってる、のかしら?」

部屋を出た後、扉の取っ手に手を掛けたままセツはずるずるとその場にしゃがみ込んでしまった。

―――お嬢様の部屋に、クラ様がいて。しかも。おそらく。多分。・・・クラ様とお嬢様は・・・男女の契りを結んだらしい。

昨日までまったく音沙汰の無かったはずが、今日にはこの事態である。
セツが戸惑うのも無理は無かった。

磨きこまれた窓から差し込む朝日の中、セツはしばし考え込み。
そして深い溜息を一つ吐いた。

「上手く、いったってことかしら・・・?」

巡る思考の中で辿り着いたのは、その一言。
先程の光景を見る限り、その結論以外ありえなかった。

「さて、ではどうすべきかしらね。」

やれやれとセツが立ち上がる。

上手くいったとなればそれは願っても無いことであるが、これからの対処が最大の難関だった。

誰にどう報告すべきかと、セツが頭を悩ませる。
ひとまずセツの中でライへの報告は問題外だった。実はライがビズを溺愛しているのはこの屋敷に勤めるものであれば周知の事実である。

ビズは気づいていないようだったが、クラに対して随分牽制していたことにセツはしっかり気がついていた。

「うーん・・・。」

頭を傾げたセツが、腕を組んでこれからの対処方法を考えることに没頭しはじめる。


「あら。セツ?」

立ち尽くしたセツの右手より突然掛けられたのは涼やかな声だった。
よく知ったその響きに、セツは反射的に勢いよく振り返っていた。

「っ!?・・・お、奥様!」

上ずった声のセツをにこやかな笑みを浮かべつつ眺めているのは、ライの妻にしてビズの母親、
マリであった。

「あの・・・その・・・、・・・。」

突然のマリの登場に一向にまとまらない考えのまま、セツが意味の無い言葉を紡ぐ。

「セツ?」

珍しくセツの動揺した姿を不審に思ったらしいマリが、ちらりとセツの背後、つまりビズの部屋の扉へと目を向けた。
セツがしまったと思い、だが既に・・・遅かった。

「ビズがどうかして?」

にこりと微笑みながら、しかし有無を言わせぬマリの迫力だった。
こういう場合のマリを誤魔化すことは、果てしなく無謀であることを知っているセツが諦めの溜息を一つ、落とす。

「・・・その、クラ様が―――いらっしゃいます。」

正直に告げたセツの言葉に、マリが目を瞠った。
流石に予想外の答えだったのだろう。

廊下の開いた窓から爽やかな朝の新鮮な空気が流れ込んで来る中、マリはしばらくの間微動だにしなかった。


「・・・ビズは今日、具合が良くないということにしときましょう。」

にこりと笑みを浮かべたまま、マリが下した決断は妥当だった。

「そうです、ね。」

セツが同意し、頷く。今はそれが良策だろうと思えた。

「さ、じゃあ、行きましょうか。」

マリが優雅に身を翻し、セツがその後に続く。


おそらくライに全てが露見するのは時間の問題だろうが、今この時だけは、初めての夜を過ごした恋人たちに幸せな朝の時間を。


セツはマリの後に続きながら、肩越しにビズの部屋の扉を見つめ、小さく苦笑した。


―――そして、この朝の出来事から数週間後。

クラとビズの婚約は正式に発表されることとなる。



〜Fin〜



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