Act.01


月光の差す開かれた窓から流れ込む風に揺れるのは、ベットにかかる天蓋。
そして、そこに映るのはシーツの波間に沈みかけているらしい二つの人影だった。


「・・・っ・・・あ、あの・・・クラ様っ。クラ様、お待ちくださいませっ。」


衣擦れの音に紛れて聞こえてくるのは、柔らかな響きを帯びた少女の声。
そして、どことなく甘い香りを含んだ少女の声に答えるのは―――・・・

「今更?何故?」

やはり同じように甘く、だがこちらはややからかいを含みながらも、艶めいて低い男性のものだった。


今、ベットの上にいるのは下級貴族の娘・ビズと、伯爵家の放蕩息子・クラである。
この二人は、紆余曲折の末にようやく気持を伝え合ったばかりの若い恋人同士でもあった。



***




ビズがクラに気持を伝えたのはつい先程のこと。
そしてクラにより雪崩れ込むようにベットへと連れ込まれたのもつい先程のことだ。


ビズは僅かに制止の声を発した後、抵抗する間もなくいつの間にかクラに両腕を捕らえられていた。

深い口付けは最初に施されたものよりいっそう激しく。
唇を割って滑り込んできたクラの舌がビズの口内を探っていく。

上顎を撫で上げられ、逃げようとしたビズの舌は強引に掬い取られた。

響く湿り気を帯びた音。クラの熱く柔らかな舌から注がれる蜜がビズの喉へと溜まっていく。

ベットに上る前とは明らかに異なっているクラの口付けに、ビズはどうしていいのかわからずにただ只管クラの動きに合わせていることしかできなかった。

「ん・・・ぅ・・・っ」

息苦しさにビズが喘ぐ。しかしクラの動きは止まらない。
とうとうあまりの息苦しさに耐えかねて、ビズは両腕に渾身の力を込めてクラの戒めを振りほどこうとした。

これにはどうやらビズが本気で苦しがっているらしいとわかったらしく、名残惜しそうではあったがクラはようやく唇を離してくれた。

「ん・・・はっ・・・。」

ビズが肩を上下させながら荒く息をつく。
唇の濡れた感触が気になり手で拭おうとしたが、両手首はクラに掴れたままなので叶わなかった。


「・・・クラ、様。・・・今更、といわれましても。・・・大体において・・・私はまったく承諾しておりません・・・っ。腕を、離してくださいませ。」

まだ乱れる息の元、ビズがクラに訴える。

すると僅かな間の後、見つめるビズの目の前で、クラがふうと大袈裟に溜息を落とした。

クラの手が開かれ、ビズの腕が自由になる。
ビズは慌てて片手を胸元に引き寄せ、夜着の胸元を握り締めた。

そしてもう片方の手をベットにつくと、クラから距離を置くべくじりじりとベットの上部側の縁へ移動しはじめる。

ビズのその様子を見て、クラがくくっと喉を震わせ小さく笑んだ。

「まだ言いますか。そんな顔をして言われても止められるわけがないでしょう。」

「なっ・・・どんな顔だというのですか。」

逃げるビズを、ベットを軋ませながらクラが追う。

「貴方が今しているその、可愛らしい顔ですよ。」

ビズの背に、軽い衝撃。ベットの上端へ突き当たり、ビズはこれ以上逃げ場がないことを悟った。

顎にクラの指がかかり、ビズがびくりと身を震わせながらきつく目を瞑る。

天蓋のついた広々としたその中に、外套を抜いだだけのクラと薄手の夜着しか纏っていないビズ。二人の呼吸音だけが静寂の中、ビズの耳に届いていた。


クラとそうなることが、怖いのかそうでないのか。望んでいるのかいないのか。
おそらく相反するその感情の両方が今のビズの心境だった。

怖いとも思うし、そうでないとも思う。望んでいるとも思うし、まだ待って欲しいとも思う。
改めて、クラといることで知る己の感情の不可解さ。

だが今まで知ることの無かったそれらを、ビズは不思議と嫌だとは思わなかった。

クラが通ってこなくなって。会えなくなって。
その間胸が焦げる程、ビズはクラを想っていた。

だからこそ、今のこの状況すら心のどこかで嬉しいと感じている自分が居ることにビズは気づいている。


「・・・どうしても、駄目ですか?」

クラの苦笑交じりの声に、はっとビズが瞳を開いた。
白色の繻子で作られた天蓋から差し込む薄い月光が、クラの漆黒の瞳に僅かな光を投げかけている。

心の中を見透かされていたような気がして、ビズの心臓がどくんと跳ねる。
まっすぐクラに見られていることが気恥ずかしくて、ビズは瞳を伏せながらこくりと頷いた。

「・・・そうですか・・・。」

小さく溜息をつきながら、クラが諦めたようにビズの顎から手を引く。

どうやら止めてもらえそうだと安心しつつ、でも心の片隅でほんの少し落胆していることは敢えて押しやりながら、ビズはほっと緊張を解いた。
胸元をきつく握り締めていた手をゆっくりと膝の上に降ろす。

クラは紳士。その認識が今までの行動によりしっかり植えつけられていたビズは、クラが引いてくれたらしいとこの時すっかり信用していた。
だから、当然このままクラがベットを降りくれるものだとおもっていたのだが―――・・・。

「ですが、抵抗するのが少し遅すぎましたね。本当に嫌だったのなら初めに口付けた時に抵抗しないといけませんよ、ビズ?」

「え?」

からかいを含んだ言葉と共に、ビズの夜着にクラの長い指がのばされていた。
今までビズが握り締めていた、胸元を覆っていた合わせ目の紐が引かれる。クラの指がビズから離れ、夜着の前がはらりと解けた。

ビズが、瞬きした。
それを実に楽しそうにクラが見めている。

しばし、何をされたのかわからなくて。

「な・・・、何を、なさるんですかっ!」

だが、ようやく状況を理解したビズが、はっとして夜着の前をかき合わせようとし。
しかし、動かした腕はクラの手により阻まれていた。

再び両手首を捕らわれる。

こくりと喉を鳴らしたビズが僅かに口を開きかけ。
その途端に胸元を覆っている布が重力に耐えかねて滑り落ちた。

白い胸が全て顕になる。
驚きに声を上げることも出来ず、羞恥に真っ赤になるビズにクラの体重が圧し掛かってくる。

クラがビズを押し倒す形で、二人はシーツの波間に倒れこんでいた。

背に当たった柔らかな感触に息が詰まったり、開かれたビズの唇。それに、クラの唇が重なってくる。
忍び込んできたクラの舌は、熱く柔らかく。再びビズを翻弄しはじめる。

口内で、クラの舌がビズの上顎を優しく撫でてくる。くすぐったいような、体の中心がじんとする感覚に、ビズはもう抵抗することも出来ず、無意識のうちに熱い口付けを深く受け入れていた。



***




クラは、自分の体の下で苦しそうに喘ぐビズの華奢な身体に触れながら心の中でやや自嘲的な笑みを漏らしていた。

性急過ぎることはわかってる。

しかし、口付けにより上気した頬や艶めく唇、それに薄い夜着の胸元から覗く白い肌、それになによりビズからの告白。それらはクラの理性を崩すには充分だった。

会えなかった間、ずっと触れたかったビズが目の前にいる。
甘い喘ぎと色ずく頬、僅かな光にすら深い蒼を感じさせる瞳を向けられ、全てを奪ってしまいたいという衝動を抑えることが出来ない。

ビズが戸惑っていることを感じる。まだ早いのかもしれない。
それでもクラはビズを愛撫するという行為をどうしても止めることができずにいた。


「とても・・・敏感ですね。」

愛撫に素直な反応を返してくるビズが愛しくて、思わずクラの口から滑りでた言葉だった。

ビズの紅い頬がさらに紅く染まっていく。
その様も、そして羞恥に身を竦ませる姿さえ今のクラには酷く扇情的に見える。

「恥ずかしいです、から。クラ様せめて手を・・・離してください。」

小さくビズが囁いた。

まだ僅かに抵抗しそうな気配を見せているビズの様子に、クラはその細い両手首を頭の上で重ねあわせ、片手でベットへと縫い付けてしまっていた。

強く押さえつけているわけではないが、ビズがたやすく外すことのできない力ではある。

動きが封じられていることが不安なのだろうが、クラは敢えて無言のままビズの上に圧し掛かり、顕になっている双丘の片側に口付けを落とした。

桜色に色づくそこに舌を絡めた後、軽く歯を立てるとビズがクラの下で身じろぐ。
クラは口を開け、ビズのまだやや小ぶりだが、形の良い胸に吸いついた。

「ん・・・」

ビズが甘い吐息を漏らす。

片足でビズの膝を割り、クラが開いた細い足の間に体を滑り込ませる。

愛撫していた手をゆっくりとビズの体に沿って伝い降ろしながら、クラは自らの手により殆ど肌蹴てしまった薄い夜着の裾からそれを忍び込こませた。

「っ!?」

驚いたのだろうビズが、両手の自由を奪われながらもクラの愛撫から逃れようと身じろぎする。
今まで誰にも触れられたことの無いだろうそこに、クラの指が触れようとしているのだから当然だろう。

クラが安心させようとビズの内腿辺りにゆっくりと優しく触れる。
額に口付け、ついで瞼、頬、そして唇へと次々に口付けを降らせた。

ビズが眉根を寄せ、懇願するようにクラを見つめている。
だが、クラは苦笑を漏らしただけで、ビズの滑らかな足を愛撫する手は止めることはなかった。

ビズが諦めたように瞳を伏せる。

閉じようと力が込められていたビズの足からゆっくりと力が抜けていくのを感じ、クラはビズの秘められたそこにやさしく指を伸ばした。



***




「大丈夫、ビズ。怖くないですから。・・・ほら、気持いいでしょう?」

体の中心をクラの指が優しくなぞっていく感触に、ビズは唇を噛みしめ漏れそうになる声を必死に耐えていた。

潤っていたらしい花びらをクラの指により開かれ。花芯をさがしあてられ。
指の腹でゆるく撫であげられている。

ビズは額にクラの口付けを受けながら、初めて感じる甘い痺れに無意識のうちにふるふると頭を横に振っていた。

「・・・い、や、・・嫌です、クラ様・・・。」

今まで施されたことのない愛撫と未知の感覚に、ビズが震える声でクラに抗議する。
ブルーアイには、既にいつ零れ落ちてもおかしくないほどの涙が溜まっていた。

「仕方のない人ですね。」

クラが困ったように笑み、一度ビズの目元に口づけるた後、ようやくそこから指を離してくれた。

ビズが小さく安堵の息をつく。

クラがどうやらこの行為自体を止めてくれる気がないことはもうビズにもわかっている。
いや、おそらく本気で抵抗すればクラは止めてくれるだろうとは思う。
しかしビズは心底クラとの触れ合いを拒絶しているわけではなかった。

クラの手は優しく、囁きは甘い。捉えられていた腕もいつの間にか自由になっている。
それでもビズはクラの手を払いのけようとは思えなくなっていた。

「・・・クラ様・・・?」

ふと気づけば、ビズの上に圧し掛かっていたクラの重さが急に無くなっていた。

不安にビズが瞳を揺らめかせる。その途端、信じられないところに信じられない感触。

クラのさらりとした黒髪が、ビズの下腹部に触れていた。

「っ!?いや、クラ様・・・いやっ!」

ビズが悲鳴に近い声を上げる。
反射的に閉じようとした足は、しかしクラが邪魔をして思うよう動かせなかった。

くすぐったさととんでもない羞恥で、ビズの瞳からとうとう涙が零れ落ちた。

幾ら夜の帷の中とはいえ、僅かに差し込む月光で完全な闇となっているわけではない。
人に見られることなど無いそこにクラの視線を感じて、ビズはクラの頭に手を伸ばし止めてくれるように懇願しようする。

「クラ様、お願いですから、やめ・・・っ」

しかしビズの制止の声は、そこで途切れた。
秘所に触れてきた温かさに言葉を失ったのだ。

それがクラの舌だと気づいた時には、既にビズの蜜は舐め取られていた。
花芯に触れられ、腰がびくりと浮く。

「や、・・・いやっ・・・・・・・・んっ・・・」

自らの拒絶の声が次第に甘いものになっていくのを、ビズは羞恥の中で感じていた。
クラの舌が、中に差し入れられ、足がびくんと震える。

制止のために伸ばされていたはずのビズの手が、クラの黒髪の中に差し入れられくしゃくしゃにしていく。

ビズは、蜜が自分のそこから溢れ出ているのを感じていた。
花芯を舌と指で責められ、湿った音を響かせているのが自分の体であることが信じられない。

そして、クラにより何度目かの愛撫が花芯を施された瞬間、ビズの息が詰まった。

短く、甘さを含んだビズの悲鳴に似た声。
頭の中が真っ白になっていた。

快感の波に攫われ、華奢な体が痙攣する。

初めての絶頂。
だが、ビズには何が起こったのか、わからなかった。


「ふ・・・・・・は・・・、あ・・・・・・クラ・・・様?」

震えのおさまったビズが、肩で息をつきながらクラのいる方を見る。
すると同じようにビズへと目を向けていたらしいクラと視線が絡んだ。

「気持ちよかったですか?」

尋ねられ。なんと答えればいいのかと言葉に詰まった。
無言のまま答えないビズに、クラが思案気に首を傾げ。

「・・・気持ちよくなかったですか?」

再びビズの足の間に顔を埋めたクラの吐息が、ビズの秘所にかかる。

「っ!?」

敏感になっているビズのそこが、ひくりと反応を返した。
しっかりと見ているらしいクラには、当然全てわかってしまったのだろう。

低い笑い声に、ビズは真っ赤になりながらクラの髪を軽く引っ張った。

「・・・・・・ち・・よかっ・・たで、す・・・、・・・クラ様は、意地悪ですっ」

肯定しながらも非難するビズの答えに、ようやく顔を上げたクラは実に満足そうな笑みを漏らしていた。

ややむっとしつつも、これ以上恥ずかしいことをされては堪らないとビズが口を噤む。
すると、クラがどうにも気だるい感覚が抜け切らないビズの上に再び上体を乗せて来た。

「では、今度は嫌がらないでくださいよ?」

ビズを見下ろしながら、からかう様な笑みを浮かべている。

何をですか、とビズが聞くより前に、ビズの秘所にクラの指が差し入れられていた。

そして。潤ったそこにすんなりクラの指を受け入れたビズは。
長い指に中をかき回され。内壁を擦られ、突かれ。

「や・・・っ!・・・いやぁ・・・っ」

クラの腕に爪痕を残し、がくがと体を震わせながら二度目の絶頂を迎えることとなっていた。



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