『あ、ゆうき君?』


そろそろ昼になろうかという時刻。
ゆうきは自宅のマンションで意外な人物からの電話を受けていた。

「澄香、さん?」

声に驚きを滲ませながら、ゆうきは華の母親の名を呼ぶ。

『ええ。あのね、悪いんだけど。ゆうき君今日・・・休みよね?』

電話口の向こうで、僅かに言いよどむ澄香の声。

「え?・・・・ええ。」

『華がね、寝込んでるの。それで、できれば家にきてやってくれないかしら?』

「・・・・いいんですか?」

意外な人物からの意外な提案。ゆうきは窺うように尋ね返していた。

何故かゆうきが家を出てから、華が病気の時は美枝たちのガードにあってしまい、あわせてもらうことが出来なかったのだ。
それなのに急にこの申し出である。かなり、不審だった。

『・・・ええ。今日は美枝も美由紀も都合がつかなくて。・・・・・それに、今の関係なら・・・・問題ないと思うわ。』

やや間があってから。澄香が普段どおりの声で答えてくる。

「問題ない?」

『ふふ。こっちの話。それで、引き受けてもらえる?』

ゆうきの眉間に僅かに皺がよる。
だが、明るい調子でいう澄香に、ゆうきはそれ以上追求できず「それは、構いませんが。」と答えるしかなかった。

澄香がゆうきに合鍵を持っているかを聞いてくる。
ゆうきが持っていると答えると、本当に困っていたらしい澄香は安堵したように溜息をついた。


『じゃあ。お願いします。・・・・それと、あんまり無理させないでね。』

ゆうきが返事を返す前に、ガチャリと切れた電話。

―――無理、させるな?

ゆうきは僅かに引っかかるものを覚えながらも、手早く身支度を整えると、車のキーを持ってマンションを出た。



***




華の家につくと澄香は既に居なかった。
ゆうきは玄関の鍵を開け、二階にある華の部屋へ真っ直ぐに向う。


「華?」

部屋に入ると、華がベットの上で眠っていた。ゆうきがそっとベットに近づく。

さらりと額にかかる髪を避けてやり、手で熱を測ると・・・かなり、熱かった。

ゆうきが部屋の中心にあるローテーブルへと眼を向ける。
その上には水差しと薬の袋。どうやら医者にはいったらしかった。

―――華の部屋に入るの・・・そういえば久しぶりだな。

前に入ったときとは大分雰囲気の変わった室内を見渡す。
カントリー調でまとめられた家具は、かなり上質なものだった。おそらく澄香がそろえたものだろう。

学習用の机に、本棚。据付のクローゼットとローボード。それにベット。八畳の部屋の中に、それらがバランスよく配置されていた。

ふとゆうきの眼がローボードの上で止まる。

見覚えのある、熊のぬいぐるみ。

どこかでみたことがある、それ。ゆうきが記憶を手繰る。

・・・・誕生日。

そう、その熊は―――華の六歳の誕生日に奏が贈ったものだった。
大分くたびれている熊を見つめる。と。その首に巻かれているリボンに眼が留まった。

やはり見覚えのあるそれは――――ゆうきが、華に贈ったリボン。

幾分色あせているリボンを見ながら、まだ持っていたのかと、ゆうきの顔に僅かな笑みが浮かぶ。

あの時は、まだ気づいていなかった思い。
華を妹のようだと、思っていた昔の自分。
そして16歳の時には想像も出来なかった――――たった一人の少女に嵌りこんでいる、今の自分。

懐かしい思い出だった。もう10年も前のことになるのかと、改めて時間の経過を感じる。



「・・・・ゆ・・うき、ちゃん?」


感慨に耽っていたゆうきの耳に、小さくかすれた声が、聞こえた。

ベットに眼を戻すと、華が目を開けたところだった。

「ああ。悪い、起こしたか?」

「んーん。・・・・・喉、渇い、た・・・・。」

どこか焦点の合わない目で、華が左右に首を振る。
ゆうきは、ベット脇のテーブルにおいてあった水差しに目をむけ、コップに注いだ。

「ほら、華。」

華が起き上がろうとするのに手を貸し、コップを差し出した。
だが、力が入らないのか、華は自分でコップを持つことが出来ないようだった。

ゆうきがコップを手に持ったまま華の口元に持っていく。

「ん、う。」

水を飲もうとした華の口元から、ぱたりと水が零れた。

「・・・と、華。ちょっと待て。」

このまま行くと、布団に際限なく水が落ちていきそうな勢いに、ゆうきは一旦華の口元からコップを引く。

「あ・・・やあ・・・・もっと・・・」

潤んだ目で、離れたコップを追おうとする華。
ゆうきは力の入らない華の体を抱きこみ、コップの水を自分の口に含んだ。

華の僅かに開いた唇に、自分のそれを押し付ける。

「んん・・・ん・・・」

小さく喘ぎながら、華が口を開く。ゆうきから流れ込む水を華がこくりと喉を鳴らし飲み込んだ。

ゆうきはそれを確認して、唇を離そうとした―――のだが。

突然、口中に滑り込んできた暖かな感触。それがなんであるのか咄嗟には理解できなかった。

―――華の、舌。

その事実に驚くゆうきをよそに、華はゆうきの口に残る水を舐め取るように舌を動かす。

「・・・・ちょ・・・と、待て、華っ」

ゆうきは溜まりかね、華の華奢な肩を両手で掴んで―――押し戻した。

じっとゆうきを見ている華の黒い瞳が、熱のためか酷く潤んでいる。
紅潮した頬と、パジャマの胸元からのぞく白い肌。

―――これは、不味いだろう。

そう思い、咄嗟にベットのそばから身を引こうとしたゆうきの袖に、華の手がかかった。
しかし、力の入らない華の体はベットから滑り落ちそうなる。

ゆうきは腕を伸ばして華を捉え――――腕に、華の柔らかな感触が、あった。
さらさらと流れ落ちる黒髪。ベットから落ちかけた姿勢のまま、華がゆうきを見上げている。

動いた拍子に捲くれ上がったパジャマの裾。白い腰。
華がゆっくりゆうきに向って顔を近づけてくる。

唇に感じる、熱さ。華の香りがゆうきの間近にあった。

華の細い指が、ゆうきのシャツの裾からするりと忍び込む。

これはどうも明らかに迫れているらしい。
そう思いながらゆうきは僅かに眩暈が・・・した。

おそらく熱のせいであろうとは思う。だが、こう誘われては自制心も限界になろうというものだ。
華は病人―――それだけが、ゆうきの理性を引き止めていた。

ゆうきがそっと華の体を遠ざける。

「華、お前、熱があるんだろう?おとなしく寝ておかないと直らないぞ?」

華の頭を撫でてやりながら、ゆうきは理性を総動員して。諭した。

しかし、その途端。華の黒い瞳から、ぱたぱたと透明な雫が流れ落ち。
ゆうきは、参ったと額に手を当てた。

「・・・華は・・・・ゆうきちゃんの一番近くに・・・いたいのに・・・・。」

ぼろぼろと泣きながら、訴えかける華。

「どうして?・・・離れていっちゃ・・・・やだぁ・・・。」

軽いからだが、ゆうきの腕の中に倒れこんでくる。

ぐすぐすと泣いている、華。
暖かい体。

「華、どこにも行かないよ。傍に、いるから。・・・な、いい子だから布団に入りな?」

そっと震える華奢な背中に手を廻し、ゆっくりと摩る。

「・・・・本当に?」

「ああ。本当に。」

真っ直ぐにゆうきを見つめ返す華。
ゆうきは甘く微笑むと、ぱたぱたとこぼれる華の涙を舌で舐め取った。

そして、おとなしくゆうきにされるままとなっていた華の涙が止まる頃。華がそっと囁いた。

「あの、ね。華は・・・もっと・・・・ゆうきちゃんの、近くに・・・・いきたいの・・・。」

ゆうきの腕の中で、華がまるで昔に戻ったかのように幼く無防備な表情をした。
ふわりと猫のようにしなやかに伸び上がり、ゆうきの首に細い腕を絡める。

不安そうに揺らめく瞳。これはどうやら誤魔化されてはくれないらしいと、ゆうきが苦笑した。



***




「・・・・わかったから、華。その代わり、きつかったら途中でもいうこと。我慢するなよ?」

こくりと首を縦に振る華。腕に感じる熱い、身体。

本調子で無い華を相手に最後までするつもりは無いが、ゆうきはとにかく華の快感だけを追い上げようと決めた。
もっとも自分の理性がどこまで持つかに、一抹の不安を感じてはいたが。

ゆうきは自分の体に廻されていた華の手をそっと下ろした。
パジャマのボタンに手をかける。ボタンをすべて外し、華のパジャマの前を開けてその白い胸元を顕にした。

手で二つの柔らかなふくらみを弄びながら、指の間に覗いている硬くなった桜色の頂きを口に含む。
ゆうきが軽く歯を立て、甘噛みする。

「は・・・・、う、ん・・・」

甘い声。なるべく華の体に負担をかけないように、ゆうきは華の敏感な場所を次々に責めたてた。

細い体のラインにそって手を滑らせながら、滑らかな背中に到達する。
一旦そこで動きを止めてから、ゆうきは手を下へと滑らせ、パジャマのズボンの中へと侵入させた。
さらに下着の中に手をいれ、双丘を伝い、後ろから華の足の間に指を差し入れる。

華の後ろから秘所を探りあてたゆうきは、そこが潤っていることを指先の感触で確かめた。
濡れた花びらを指で押し広げ、花芯に触れる。

「ん、ああ・・・んっ」

華の体が震え、ゆうきの耳元で小さな喘ぎ声が漏れた。

ゆうきは華をゆっくりとベットに押し倒しながら、パジャマのズボンと一緒に下着も華の足から抜き取る。

パサリと軽い音をさせベットに倒れこんだ華の白い膝頭に手をかけ、ゆうきは華の足を開こうとした。

「あ、だ・・め・・」

華の足に力が籠もる。僅かな抵抗。ゆうきは無理に足を開かせようとはせず、手を下ろして華の顔を見つめた。
潤んだ目を恥ずかしそうに伏せ、頬を朱色に染めている。

まだ時刻は昼少し過ぎたばかり。カーテンが閉まっているとはいっても、部屋の中はかなり明るい。

そうして恥ずかしがっているところを見るかぎり、先程、あんなに積極的に迫ってきていたのが信じられないとゆうきは小さく笑いを漏らした。

「だめじゃ、ないだろう?華から誘ったんだから・・・・全部ちゃんと、見せて?」

華へ向けてゆうきが甘く囁く。
懇願するような濡れた黒い瞳。だが、ゆうきはそれ以上何も言わず、華の行動を待った。

しばらく後。逡巡していたのだろう華の瞳が堅く閉じられ。
僅かな衣擦れの音をさせながら、両膝がゆっくりと開かれていく。
人目に晒すことの無い、秘められた薄い茂みとその下にある、花芯。

ゆうきは華の動きが止まるのを待って、すっとそこに指を伸ばした。

「んっ」

華が小さく声を上げる。

ゆうきの手は、止まることなく華の蜜を絡めとり、中心に触れた。
既に潤っているそこにそっと指を差し入れると、小さな水音が響く。
華の蜜があふれ、ゆうきの指を伝う。

指を抜くと、ゆうきは躊躇うことなく華の秘所に顔を埋めた。
華の蜜壷に舌を差し入れる。

ゆうきは、このまま一度華を追い上げるつもりだった。

「あ・・・ん、待、って・・・ゆうきちゃん、や、だぁ・・・・」

華の手が蜜を舐めて取るゆうきの頭に伸ばされ、軽く髪を引かれた。

「・・・・やめる、か?」

顔を上げて華の様子を窺うゆうきに、華が小さく首を振る。

「ん・・そ、じゃなくて・・・・ゆうきちゃんと一緒じゃなきゃ・・・やだ・・・」

涙の滲む目で見つめてくる華に、ゆうきは眼を見張った。

一人で絶頂を迎えるのが嫌だといわれている、そのことに驚くと同時に甘い笑みがゆうきの顔に広がった。
いつもはゆうきから迫っているため、華の方からこんなふうに求められるのは本当に珍しい。

甘くねだる華の声。

最後までするつもりは、ない。・・・・確かに先程までは、無かったのだが。
いい加減ゆうきの高ぶりも限界だった。

ゆうきは、脱ぎすててあった上着のポケットから財布を取り出す。
その中から銀色の薄い小さな袋を掴みだすと、口で封を切った。

袋の中身を猛った自身に被せ、華の秘所に宛がう。

潤ったそこは、でも相変わらず狭く。ゆうきをきつく締め付けながらもゆっくりと飲み込んでいく。
無理をさせないように、そうは思っても。
いつもより熱い華の体内に締め付けられ、ゆうきは激しく攻め立てたい欲求を押されるのが精一杯だった。

「ゆうき、ちゃん。・・・ゆうき・・・ちゃん。」

華の細い腕がゆうきの背中に廻され、切ない声で啼きはじめる。
ゆうきは熱い激情に身を任せ、華の中で抽挿を開始した。



***




華の最奥まで、ゆうきが到達したのがわかった。
眩暈がするほどの幸福感。

ゆうきの熱い楔が、華の中を満たしながら突き上げていた。
湧き上がる快感に、華の背筋が震える。

繋がりあったそこからは、淫らな水音。

触れて欲しくて、華からゆうきに触れた。
離れたくなくて、華からゆうきを誘った。

どんなに恥ずかしくても、繋がりあっているその快感が嬉しかった。

ゆうきちゃんの一番近くに。体も、心も――――・・・

熱に浮かされ、華の口から甘い喘ぎが漏れる。
自分が何をしているのか、分からなくなってくる。

だが、ゆうきの熱さは―――ひどく心地よくて。
頭の中が、だんだんと白くなっていく。

そしてゆうきが一際激しく華の中を掻き乱したその時。
華の頭はまっしろになり。
自分の中に、ゆうきの熱が迸ったのを薄い膜越しに、感じた。



***




汗を滲ませながら、ゆうきは荒い息を落ち着けようとしていた。

体の下に組み敷いた華の体からも、汗が流れ落ちている。
何度も喘ぐように呼吸を繰り返す華。
ゆうきは無理をさせかなっただろうかと、その様子をじっと見つめていた。

視線に気づいたのか、華が薄く眼を開く。

そして、ゆうきと視線が絡み合ったその時。華が、無邪気に笑った。

「ゆうきちゃん、大好き。」

小さな華に、さんざん言われていた台詞。
そのときは、この言葉の重さをゆうきが感じたことは、ほとんど無かった。
小さな子供が言う他愛も無い言葉だと、思っていた。

しかし、今。ゆうきが華の華奢な体を開くたびに、華はゆうきに告げてくる。

それは、ようやく心も体も―――手に入れることができたということ。

長い間、待った。もう手放すつもりは、無い。
もちろん、これからもずっと――――――・・・・・


「華、高校卒業したら・・・・オレの奥さんに、なるか?」

ゆうきが、甘い笑顔で華の耳元にそっと囁く。

驚いたのであろう華の瞳が、見開かれた。
そして、しばらくした後。それは蕩けるような極上の笑顔に変わり。

思わず見惚れるゆうきの前で。

「うれしい。」

本当に幸せそうに華が頷いた。

そして、華の眼がとろりと閉じられると―――体の力がゆっくりと抜けていく。

華の静かな寝息を聞きながらゆうきは微苦笑をもらしていた。



眠り込んだ華の体を拭き、ゆうきは新しいパジャマを着せてやると、そっと布団をかけた。
手を額に当て、大分熱が下がっていることに安堵する。

―――参った・・・・。

華の枕元に座り込みながら、ゆうきは溜息が落とす。
これでは、美枝たちが病気の時の華にゆうきを合わせなかったはずである。

つまり、病気の時。華は普段我慢している反動か、かなりな甘えたがりになるのだ。
幾らなんでも澄香や美枝に迫るわけではないだろうが、それでも普段からは考えられない程、ひどく甘えたがるのだろう。
そういうことかと、華の寝顔を見つめながらゆうきは納得しかけたのだが――――・・・

―――でも、昔は違ったよな?

ふと湧いた疑問に眉宇を顰める。
そう。ゆうきが家を出る前。病気の時に、華にここまで甘えらえたことは、無かった。
それに、見舞いに来た人間に気を使ってさえいたと思う。

いつからこうなったのか、ゆうきはすやすやと眠る華の顔を眺めがなら訝しく思っていた。



***




夕刻。そろそろ残照が消えようかという頃。
ようやく澄香の車が車庫入れしているエンジン音がゆうきの耳に届いた。

静かに華の部屋から出ると一階に向う。

「澄香さん。」

ゆうきが階段を降りきった時、ちょうど玄関に入ってきた澄香と顔をあわせた。

澄香が靴を脱ぎながらゆうきににっこりと笑いかけてくる。

「ゆうき君、ありがとう。華の様子、どう?」

「寝てます。」

「そう。・・・・・汗もかいた様だし、明日には熱も下がるでしょう。」

「・・・・・・。」

澄香の含みのある言い方に、ゆうきの片眉が僅かに上がった。

「無理、させなかった?」

玄関に上がり、澄香がゆうきの傍で足を止めた。

―――やっぱり朝のあの台詞。そうなることをわかってて俺を呼んだってことか。

心の中で溜息を落とし、ゆうきは澄香の豪気さに舌を巻く。
普通、自分の娘がどうなるか知っているなら、男を家に呼んで看病はさせないだろう。

「努力、しましたけどね。・・・・昔は、あんなふうじゃなかったでしょう。」

半ば投げやりに言うゆうきに、澄香がくすくす笑い声をもらす。

「ええ、違ったわよ。華が甘えたさんになったのはね、ゆうき君が引っ越してからだもの。」

悪戯っぽく笑っている澄香。ゆうきの眼が眇められる。

「・・・・おれのせいですか?」

しかし、よくよく先程の華を思い返せば。ゆうきが離れていくことを酷く不安がっていた。
引っ越したことにより、華の心に思わぬ影響を齎していたことにゆうきは漸く思い至っていた。

これで、ようやく得心がいった。しかし――――・・・

―――これじゃあ、絶対に他の男に看病なんてさせられないだろ・・・・。

小さく息を漏らしたゆうきを見ながら、澄香が悪戯めいた微笑を浮かべる。

「さあ?―――ね、お土産買ってきたの。お茶にしましょうか。」

キッチンに消えていく澄香の後ろ姿を見つめながら、ゆうきは諦めの溜息を・・・ついた。



***




そして翌日。ゆうきは日中に、華からのメールを受け取っていた。

会社のデスクでメールを確認するゆうき。

文面を見て、低く笑い出したゆうきに隣の席の同僚から「どうしたよ?」と声が掛かる。

笑いの滲んだ声で「いや、なんでもない。」と答えるゆうきを訝しげに同僚が見てくるが、それ以上の追求はなかった。

ゆうきは手にした携帯のディスプレイにもう一度視線を戻す。そこに表示されているのは華からのメール。

『ゆうきちゃん、昨日うちに来たって本当??母さんから聞いたんだけど、私全然覚えてなくて。ごめんね、ありがとう。・・・私、何か変なことしなかった?』

どうやら昨日の出来事は、熱に浮かされての行動だったため。すべて忘れられてしまったらしい。
とりあえず、ゆうきは昨日のことを華に話すつもりは無かった。

―――プロポーズで、華のあの笑顔をもう一度見る。

悪くない、そう思いながら。ゆうきは席を立った。
もちろん華に連絡を取るために。

コール音のする携帯を耳に当て、ゆうきはゆっくりと甘い笑みを浮かべた―――――。



〜Fin〜





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